こんなに悩んだのは久しぶりかも知れない。
■再会
ジオを射るのも飽た。
回避も上がってきたし、一人でおもちゃにでも行ってみるか、とルティエに足を運んだ時の話。
軽く1階の敵を射っていく。
視界の端の方にミストースを見つけた。
青箱出ればカリスに売れるんじゃないか?
と軽い気持ちで、狙いを定めて射った。
同時に振り下ろされる剣!?
しまった、人がいたのか!
急いで相手がいる所に向かった。
「すまん、見えてなかった」
そこに居たのは騎士の少年。
赤みがかった茶色の髪を短く切り、頭にはヒュッケの猫耳。
「あ、あの、すみませんでした!」
「いや、俺も悪かった」
ヤバイ…
可愛いぞこいつ。
とか思っていたら
ポロッ
床に雫が零れた。
「うわっ、ちょ、え、俺恐かったか!?」
「あれ…?」
な、急に目の前の少年が泣きだしてしまった
俺はどうすれば…
「本当にすみませんでした!」
「それはいいが…って、おい?」
「アルク」
あたふたしている間に少年は連れていたペコペコに乗り走り去って行く。
咄嗟に追いかけようとしたものの、ペコの足には追い付かないと気付き立ち止まる。
鷹のオリオンは溜り場に置いてきた。
しまったなぁ、連れてくればよかった。
…ん?
俺は追い掛けてどうするつもりだ?
謝ってくれて、謝りもした。
普通ならそこで終わり。
なのに、なんだこのもやもや感。
自分の気持ちが分からないまま、狩りをする気になれず溜り場に戻った。
「ただいま〜」
「おかえりなさいアルシャイン、ってひどい顔をしてますよ」
「ほっとけ」
出迎えてくれたカリスを軽くあしらい自分の部屋に戻った。
トントン
ノックの音と共にカリスが入ってくる。
「何かあったんですか?」
「あー、いやちょっと失敗しただけ」
カリス、カリオストロは俺が入っているギルドのマスターだ。
んで、俺の幼なじみでもある。
小さい頃から一緒だったので遠慮もしないし、こっちもしてない。
「失敗なんていつもの事じゃないですか、何落ち込んでいるんです」
「うっ」
だから、自分の気持ちが分からないんだって。
ベッドに俯せになり足をジタバタ。
「可愛い子だったんですね」
「な、なんで知って!」
カリオストロの言葉にガハッと起き上がった。
そんな俺を見て、クスクスと笑いながら
「きっと一目惚れですよ」
なんて言った。
「はっ?」
「見た瞬間に忘れられなくなる、えぇ私もつい先日までそうでした。でも運命の相手とはまた巡り合える物なのです」
うっとりしながらそんな話されてもなぁ。
一目惚れ…
いくら可愛かったって、男の子だったぞ?
ピコピコ動く耳が似合っていて…ぎゅっとしたいなんて…………!?
「うーわー!」
「突然何叫んでるんですか」
「寝る、俺は寝るんだー!」
カリスの背中を押し、扉の向こうに押し出してバタンと扉を閉めた。
「あんまり悩まない事ですよ」
「あぁ、お休み」
扉の向こうから聞こえた言葉に返事を返し、寝ることにした。
次の日の昼頃、トントンっと扉を叩く音。
カリスか?
「開いてるから入れよ」
「おじゃまするぜ」
入ってきたのはギルドメンバーのベテルギウスだった。
「どうしたベル」
昨日早めに寝たというのに寝付けず朝までゴロゴロしていた為今だにベッドの中。
「いや、お前に会いたいって奴がいてな?」
「俺に?」
「あ、あの…こんにちは」
ベルの傍に居たのは昨日出会った騎士の少年。
驚きの余り声にならず、ベルと少年を交互にみた。
「え、な…えぇ?」
「落ち着け」
「いや、だって」
「この子、俺の相方のギルドの奴なんだ、昨日話聞いてたらお前探してるって、んじゃ俺は向こういってるわ」
手を振りながらパタンと扉を閉められる。
いきなり2人きりにされても…
汗が額を流れる。
暫らくの沈黙、先に話したのは少年の方だった。
「あの、突然来てすみません」
ペコリと頭を下げる少年。
「昨日は逃げてしまって、僕もう一度ちゃんと謝りたいと思って来ました」
「いや、そんな」
「本当にすみませんでした」
下を向いてわずかに震えている体。
昨日あんなに謝ってくれたのに、俺だって悪いのに…
ベッドから起き上がり少年の傍まで行く。
そして肩を掴み抱き寄せた。
「謝り過ぎ」
「えっ」
わしゃわしゃと頭を撫でる。
くすぐったそうに身を捩る少年。
「君が謝り続けたら、誤って射った俺も謝り続けないといけない、許してくれるか?」
「え、そんな…えと、わかりました」
「ありがとう」
「こっちこそ、ありがとうございます」
ほっと溜息を一つ。
下向いたままじゃまた泣かれそうだったんで、つい抱き締めてしまったがちゃんと納得してくれた。
謝り続けられるのも辛いからな…
ん?
抱き締めた?
下を見るとすっぽり腕に収まっている少年。
顔の下に猫耳があたってくすぐったいっていうか…
「うわっ」
バッと少年の肩を掴み体を離した。
「す、すまない、俺急に抱きついたりして!」
「え…あ」
一瞬きょとんとしていたが、少年の顔が段々赤くなっていく。
ついに下を向いてしまう。
「本当にすまない、嫌だったよな」
「いえ、嫌じゃなかったです」
ちょっと待て、そんな事言われたら…
会って2日しか経ってないんだぞ?
『一目惚れですよ』
カリスの言葉が再生される。
…………悔しいがあいつの言うとおりかもしれない。
「あーと、俺アルシャインっていうんだが、君は?」
「そういえば名乗ってませんでした、僕は静希っていいます」
「静希…その、よかったら俺と…」
ガチャ
最悪のタイミングで扉の開く音。
「静希君が来ているとベルから聞いたので、来てみたんですが…」
入ってきたのはカリス。
その視線は静希の肩にかけられた俺の手に集中している。
「アルシャイン!私の可愛い弟に何をしてるんですか、離れないさい!」
「弟!?」
「私の恋人(予定)の巴さんの弟さんです、私の弟も同然ですよ。」
「え、あの…」
「ウチのギルドにきて悪い虫がついたなんて巴さんに知れたら…私が目の黒い内は静希君に指1本触れさせませんよ」
「お前、親友の恋より恋人を優先するのか!?」
「当然です!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺たちをおろおろしながら見ている静希。
どうも、俺の恋路は難関ばかりらしい。 |