「志貴、お前好きな奴いるか?」
■一方通行
昔、両親を亡くし生きるのに必死で盗みを繰り返していた頃、その人に会った。
「ダメダメだなお前、そんなんじゃ捕まるぞ?」
俺に声をかけてきた人物、青く長い髪を後ろで一つに結び、頭には天使の羽がパタパタ動いている。
髪は青いのに赤いスカーフが印象的で…
「俺は蒼っていうんだ、お前は?」
「………志貴」
「志貴か、よし、俺が今からお前を立派なシーフに育ててやる!」
にっと笑い、手を引っ張られる。
見ず知らずの他人、なのに嫌だという気はおきなかった。
蒼さんは生きるのに必要な事を教えてくれた。
狩りの仕方、露店の見方等。
色々な所にも連れて行ってもらったし、自分にあった狩場も教えてくれた。
「お前飲み込みいいなぁ」
なんて褒めてくれた事もあった。
今まで何も知らない子供だったんだから、教えて貰えれば何でも覚える。
蒼さんと会って1ヶ月が経った頃。
「俺にも慣れてきたようだし、そろそろギルド入ってみるか?」
と、俺をプロンテラにあるギルドに連れて行く。
そこはまだ、巴の親父さんがマスターをしていた頃のギルドだった。
「棗〜いるかー」
「あれ、蒼どうした?お前がここに来るなんて珍しい」
「ちょっと頼みたい奴がいてさ、ついでに俺もギルドに入れてくれよ」
「まぁ、俺んとこは人数少ないからいいけど」
赤い髪を短く切った、ちょっと童顔のロードナイト。
「よろしく…」
「おぉ、ウチの巴と同じ位か?今日から自分の家だと思っていいぞ〜」
「んじゃ俺、酒が欲しいな」
「静香が良いって言ったらな」
「うっ」
人が良さそうなマスター。
それからここが俺の落ち着く場所になった。
このギルドに俺を入れてから、蒼さんは俺を置いて狩りに出かけるようになった。
蒼さんの傍にはいつもハイプリーストの紅月さんがいる。
俺に2人は眩しかった。
憧れていた、いつかこの2人みたいに誰かと…
ただ、少しだけ寂しかったのを覚えている。
久しぶりに蒼さんと2人で狩りに行った時の事。
敵を見つけ斬りかかる。
その姿を見ながら蒼さんが言った。
「志貴、お前好きな奴いるか?」
「え?」
好き…?
何故ここでそんな事言い出すのか分からなかった。
「お前の剣は迷いが無さ過ぎる、地に足がついてないっていうか…見てて危なっかしい」
「危なっかしい、ですか」
「好きな奴でも、親友でもいればお前はもっと強くなる」
好きな人…それは
「俺、蒼さんの事好きだよ」
目の前の蒼さんは『はーっ』と盛大な溜息をついていた。
俺何か変な事言ったかな?
蒼さんの右手が近づき額にデコピンされた。
「痛っ」
「違う、そうじゃなくてな、俺を好きっていうのは憧れだろ」
「違わない、本当に俺蒼さんの事が……んっ!?」
蒼さんの顔が近くに見えて、気がついたら口が重なっていた。
突然の事でどうすればいいのかわからない。
スルっと服の中に滑り込んでくる蒼さんの手。
俺は出る限りの力を振り絞って蒼さんの体を押し返した。
「や…だ!」
「だろ、まぁ本気じゃなかったけど、お前が俺を好きっていうのは単なる憧れ…お前が本気で好きになる奴いつか見てかればいいな」
ポンポンと俺の頭を叩きながら『悪かった』なんて言う。
蒼さんへの気持ちは単なる憧れ。
大切な人。
蒼さんの隣にいる紅月さんみたいな人…
俺にもいつか見つかるかな。
なんて思っていた。
ギルドにも慣れてきた頃、蒼さんがギルドを抜けると言った。
「志貴も馴染んできたようだし、俺が教える事ももうないかな」
「蒼さん…」
「そんな顔するな、またどっかで会える、これ持っとけ」
渡されたのはボンゴン帽とカタール。
「お前の強くなる姿、楽しみにしてるぜ」
クシャっと俺の髪を一撫でして後ろを振り向かず出て行ってしまった。
その後姿にペコリと一礼。
その後ベテルと会った。
相方の存在。
確かに、地に足がついた気がした。
後に守らないといけない奴がいると、自分が倒れる訳にはいけないと思える。
ベテルも支援しながら敵を倒していく。
蒼さんが言っていた事が今分かった気がする。
ただ、この頃ベテルが俺を見るとギクシャクしているのが分かった。
この関係を壊したくない。
俺はベテルとずっと一緒にいたいと思っているのに…。
俺がくわえた魚を手に入れたので試しに行こうと、おもちゃ工場に来ていた時の事。
「プリーストって偉大だな」
「む、異端の殴りだけどな、支援なんて自分とお前1人で手いっぱいだ」
と言う事は2人までなら支援できるって事だよな。
「俺以外にも支援するのか?」
「………………焼きもちか」
「よく分からないが、ベテルが俺以外と組むって言ったら…ちょっと嫌だ」
「志貴、お前なぁ」
体力も減ってないのにヒールを連続でかけられた。
「ベテル?」
「SPなくなった、安心しろよ、俺が支援するのはお前だけだ」
「なんか…それ、寂しいな」
「…嫌なのか?」
「いや、ベテルといると楽だし、俺は気にしないけど…お前はいいのか」
俺はベテルを大切な奴だと思ってる。
好きなんだと思う。
だけどベテルは?
クルーザーを倒した後、下を見つめ考える。
ベテルがいなくなったらまた俺はふわふわ飛んでいる状態になるんだろうか。
そんな事を考えていたらそっと後からベテルに抱き締められた。
「そんな事気にするな、俺はお前と居るだけでいいんだから…って事で帰るぞ!捕まってろ」
「え、あ…トナカイ!?」
迫ってくる嵐に気付かなかったなんて…
俺もこの頃おかしいのかも知れない。
ベテルの溜まり場に帰ってきた。
「危なかったな」
そう言うベテルと目があった瞬間
かぁっ、と自分の顔が赤くなったのか分かった。
なんでだ…?
ベテルの顔なんていつも見てただろ。
それに帰る前こいつ何て言った?
俺と居るだけでいいって…
それは、ベテルも俺と同じ気持ちだと思っていいのか?
「志貴?」
その声にビクっと体が震える。
ダメだ、気付いちゃいけない…
この気持ちは、ベテルは親友で相方なんだから。
この関係は壊したくないんだ。
「俺カプラで帰るから」
じゃあなと手を振って逃げるようにベテルの溜まり場を出た。
自分のギルドに帰り、巴にただいまと言ってから自分の部屋に戻る。
ベッドに寝転んで考えた。
蒼さんを好きだった気持ちとベテルを好きだと思う気持ちは違う。
巴達も好きだと思うけど、ベテルを好きな気持ちとは違う気がする。
ずっと親友だと思っていた。
なんだ…これ…。
蒼さんがいたら…この気持ちの答えを教えてくれただろうか。
続く?
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