「ベテル!見てくれやっと手に入れたんだ」
と相方が嬉しそうな声で呼びかけてきた。
■魚
「どうしたんだ志貴、お前からこっち来るなんて珍しい」
「早く誰かに見せたくて」
普段は俺が志貴の溜まり場に入り浸っているので、志貴が自分から俺の溜まり場に来るなんて事はない。
よほど見せたい物が手に入ったのか?
「これ」
ウキウキと志貴が見せてきた物。
それは…くわえた魚?
「ずっと買う為にお金貯めてて、今日やっと手に入れたんだ」
「そういえばこの頃無駄遣いしてなかったな」
「これくわえてるだけで魚食べた時の回復増えるなんて…」
ぱくっと魚をくわえて感動している志貴。
………何か素直に祝福できないぞ。
確かに支援プリに比べたらヒールの回復量少ないけど、俺だって支援できる。
こいつ相方がいるのに魚食べるつもりか。
しかし喜んでる志貴の顔を見るのは嬉しいとか思ってしまう。
じーっと見ていると
「ん?ベテルもくわえてみるか?」
と志貴が言った。
「え?」
「じっと見てるし、ほら」
差し出される魚。
いや、試したい訳じゃなかったんだが…
ん?これさっきまで志貴が口に咥えてなかったか?
意識してはいけない事に気がついてしまった。
つまり、これを咥えたら…志貴と間接…
かーっと顔が赤くなるのが分かる。
俺もう24歳だぞ?
何これくらいで赤くなってるんだよ。
「どうした?」
「いや、その…これ今まで志貴が咥えてたよな」
「む、今更だろ、そんな事きにしてたのか」
「今更?」
「昔から1つの飲み物回したりしてただろ」
「あー確かに」
意識してなかった時の俺、意外と恥ずかしい事してたんだな。
ぱくっと手に持っていた魚を咥える。
ふと足りないなんて思ってしまった。
「なぁ…志貴」
「ん?」
「俺が、本当にお前にその…間接的にじゃなくて、キスしたいって言ったらどうする?」
「何冗談言ってるんだ」
冗談か。
そうだよな、お前と俺は相方で親友だもんな。
「あはは、いや冗談だよ」
「俺じゃなくて女の子にしとけ、お前もてるんだから」
「一応、聖職者なんだが」
「ははは」
志貴が見せる笑顔。
うん、今はまだこの顔を傍で見れるだけで幸せかも知れない。
「よし志貴、魚試しに行ってみるか、確かおいしい魚落ちるんだろ?」
「あぁ、何処行く?」
そんな訳で軽く狩りに。
試すだけならどこでもいいと、溜まり場から近いおもちゃ工場にきていた。
サクサクとクッキーやらミストケースを倒していく。
うん、結構魚落ちるもんだな。
「ベテル」
「ん?」
「今気付いた」
「あぁ、なんだ」
「お前いたら、魚いらないんだよな」
「はぁ?」
今頃気付いたのかこいつは!
「プリーストって偉大だな」
「む、異端の殴りだけどな、支援なんて自分とお前1人で手いっぱいだ」
「俺以外にも支援するのか?」
「………………焼きもちか」
「よく分からないが、ベテルが俺以外と組むって言ったら…ちょっと嫌だ」
「志貴、お前なぁ」
照れ隠しにヒールを連続で志貴にかける。
「ベテル?」
「SPなくなった、安心しろよ、俺が支援するのはお前だけだ」
「なんか…それ、寂しいな」
「…嫌なのか?」
「いや、ベテルといると楽だし、俺は気にしないけど…お前はいいのか」
銃を撃ってくるおもちゃの兵隊を倒しながら志貴が言う。
無意識にそんな事言うんだから堪らないよな…
そっと後から志貴を抱き締めた。
「そんな事気にするな、俺はお前と居るだけでいいんだから…って事で帰るぞ!捕まってろ」
「え、あ…トナカイ!?」
このタイミングで氷のトナカイに遇うなんてついてない。
目の前に迫ってくるトナカイ、それを避けるように出した光の柱に飛び乗った。
「危なかったな」
「まさか、魚試しに行っただけなのにトナカイに遇うとは思わなかった」
笑いながら志貴と目があう。
とたん、志貴の顔が赤くなった。
え?
「あ、ベテル今日は遅いからもう帰る」
「え、あぁ、お疲れ…送ろうか」
「いや、カプラで帰るよ、じゃあな」
逃げるように走り、溜まり場から出て行く志貴。
その後姿を見送るしかできなかった。
つづく。
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