遅い。
もう約束の時間は過ぎているのに…
■自覚
今日は廃屋に行こうか、なんて志貴と約束していた。
俺のギルドの溜り場はアルデバランにあるので、俺が支度できたら迎えに行くよ、とか言っていたのに!
約束の時間になっても志貴が来ない。
WISも通じないし…
まさか何処かで倒れていたり…!?
一人でそんな事を考えていたら見兼ねたのか、双子の弟が口を出してきた。
「ベル…お前なぁ、心配なら見に行けばいいだろ」
「うっ、しかし親友を信じて待つというのも大事だと」
「このヘタレ、来るって言ってんのに、迎えに行って喜ばせるって考えはないのか」
「シリウス、志貴は女の子じゃないんだぞ?」
「知ってる、ていうか自覚してないのか…眉間に皺よせて、心配ならとっととプロ行ってこい!」
ドカッと背中を叩かれる。
眉間に皺?
心配だしイライラしてるのも分かる…
あれ?
俺、そんなに志貴に会いたいのか。
「にーた、行ってこい、志貴さんどっかで倒れてたらどうするんだ」
「プロキオン…親友待ちきれない兄ってどう思う?」
「良い事なんじゃないか?」
首を傾げながらそう言う弟の純粋な瞳。
そうだよな、心配だもんな。
「よしっ、迎えに行く」
「あぁ、百面相してるお前見るのウザイからさっさと行け」
手をひらひらさせながら見送るシリウス。
まったく、もうちょっと言葉を選べ。
「ワープポータル!にーたプロ行きだ乗れ」
「ありがとうプロキオン」
プロキオンの出した光の柱に乗る。
光につつまれ、目を開けるとプロンテラに着いていた。
さて、先ずは志貴の溜り場に行ってみるか。
ガチャ
「こんにちは〜」
「あれ?ベテルギウス、どうした」
ギルドの溜り場に居たのはマスターの巴と、その弟の静希だけだった。
「志貴と約束してたんですが、あいつ今何処にいるか知りませんか?」
「志貴さんは、えーと確か…プロ東に、お昼ぐらいに出ていきましたよ」
「プロ東?ありがとう静希」
ひらっと手を振り溜り場を出る。
昼頃出ていったか、約束した時間は夕方の4時だったからそれまで時間潰してたのか?
東門をくぐり外に出る。
緑の匂いが心地いい。
さて、まだここにいるかな…
テレポで飛んでいると特徴のある帽子が見えた。
そっと近づく。
木にもたれ掛かり目を閉じている。
おまけにスースーと寝息が聞こえてきた。
「………寝てる」
日のよく当たる場所。
人目にもあまりつかなさそうな所で気持ち良さそうに寝ていた。
はぁっ、とため息一つ。
「お前なぁ、心配したんだぞ」
呟く。
そんな文句を言ってるのにもかかわらず俺の顔は緩んでいるのが分かる。
しかし、改めて見るとこいつ、結構整った顔してんだな。
普段は被っている帽子のせいで表情が判り辛いが…
そっと頬に触れる。
「アサシンが、こんな近くに人が居て起きないなんてな、緊張感ないんじゃないか?」
「…お前相手に緊張してどうする」
「なっ」
咄嗟に触れていた手を退けた。
「なっ、お前起きてたのか!?」
「そりゃ人が来たら起きるだろ、でもベテルならいいやと」
「…っ」
それは、つまり俺だと安心て事か?
かーっと顔が赤くなるのが分かる。
やばい、自覚した。
俺は…
「っと、もうこんな時間だったのか。悪い今から行くか?ん?どうした顔押さえて」
「いや、何でもない」
言いながら志貴の隣に座る。
「ベテル?」
「今日狩りいいや、ここでのんびりしようぜ」
そう言って目を閉じた。
「いいけど、寝るのか」
「たまには、こういうのもいいじゃないか」
「…そうだな」
コテンと俺の肩に頭を乗せてくる志貴。
こいつは…
自覚したとたん何時もしていた事なのに意識する。
数分経つと、スースーと寝息が聞こえてきた。
心地いい。
だから、今この位置にいるだけでいいから…
暫らくは自分の気持ちにウソをつこうと決めた。
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