あれ?
あそこにいるのは…
■買い物
イズルートまで狩りに来たついでに、露店でも回ろうとプロンテラまで足を延ばした。
普段アルデバランから動かないのでこの人の多さは慣れない。
まして露店街だとまともに動けない程の人。
そんな中で頭にニワトリを乗せている人物が目についた。
「あれは…」
赤い髪を短く切り、その上には鶏。
職業はブラックスミス。
間違いない、あの人は…
気付かれないように、そっと近づく。
「ん〜」
唸りながら露店に並べられた品を見ている。
手には狸人形が一匹。
「こんにちは、巴さん」
「うわぁ!?」
後ろから掛けた声にビックリしたのか、凄い勢いで後ろを振り返る巴さん。
「お久しぶりです」
「あ、お前…確か、カリオストロ?」
「覚えていて下さったんですね」
2週間程前、フィーリルのレベル上げに行った時、巴さんに出会った。
一目惚れなんてあると信じてなかった私が、一瞬で恋に落ちた。
芯が通った力強い眼差し、その目で自分だけを見つめてほしいと。
とはいえ、巴さんと連絡先も交換しないまま別れてしまった。
いや、交換もできないまま逃げられたというのが正しいのですが。
「ずっとお会いしたかったんですよ」
「俺はできれば会いたくなかったけどな」
「まぁまぁ、今日はお買物ですか?」
「あぁ、あ」
そこで思い出したと言うように、手の中の人形を見つめる巴さん。
「ん〜…」
「人形お好きなんですか?」
「なっ!?いや、俺じゃなくて弟が好きなんだ」
「弟さんがいるんですね」
「そ、それで買ってやりたいんだが…さっき剣を買ってしまってな」
残念そうな顔。
「では、すみません、これとこれ頂けますか?」
巴さんの手の中にいる狸人形と、まだ露店に並べてあったポリン人形を指差す。
「はい、合わせて80kになりまーす」
「待てカリオストロ」
「いいんですよ、ではこれで」
「ありがとうございましたー!」
元気な商人ちゃんの声を聞きながら歩きだした。
「そんな、怒らないで下さい」
「それ渡したいから弟に合わせろだぁ?下心見えてるじゃねーか!弟に手ぇ出したら殺す」
「違いますよ、私は貴方しか見てません。弟さんにお兄さんと付き合ってますとご挨拶に」
「誰が付き合ってますだぁ!?」
ガスッと飛んでくる拳。
しかしながら、力がそんなにないからなのか痛くない。
「ったく、調子狂う」
いいながら、早足でスタスタ歩いて行ってしまう巴さん。
1m位離れた場所で立ち止まり
「来ないのか、弟に会うんだろ?」
と声を掛けてきた。
一瞬耳を疑ったが、巴さんは立ち止まったまま。
「おい」
「は、はい今行きます」
聞き間違いじゃない。
嬉しくなって急いで後を追った。
「帰ったぞ、志貴変わりなかったか?」
暫らく歩き巴さんのギルドの溜り場に着いた。
ギルドのマスター、なるほど人をほおっておけないのは性格ですか。
「おかえりマスター、変わったとこ…ベテルが遊びに来たくらいか?」
「そんなもん日常だ、変わった内に入るか」
「おじゃましてます、って、あれ?」
巴さんと話してるアサシンの隣に見た事あるプリースト。
「ベル、巴さんのギルドに入り浸っていたとは羨ましい」
「入り浸ってって、こいつ俺の相方」
隣のアサシンを指差す。
「ベテルギウス、こいつの事知ってるのか?」
「知ってると言うかウチのギルドのマスター」
「なにっ?」
親しい感じで巴さんと話すベテルギウス。
後で上納入れときましょう、えぇ、ちょっとした嫉妬ですよ。
「あれ、おかえり兄さん…お客さん?」
奥の扉が開いて少年が出てきた。
赤みがかった茶色の短髪。目の色は巴さんと一緒。
「ただいま静希」
「初めまして、貴方が巴さんの弟さんですね、私カリオストロと申します、巴さんの恋人で…ぐふっ」
台詞を全部言う前に巴さんの拳が鳩尾に決まる。
「百歩譲って友人だ、友人!」
「え、えと、兄がお世話になってます」
ペコリと頭を下げる静希君。
純粋な良い子のようです。
何とか痛みも落ち着いてきたので、カートに入れていた人形を取り出した。
「静希君これ、巴さんから好きだと聞いたのでお近付きにどうぞ」
「あ、ありがとうございます…あれ?タヌキ?」
狸人形を手に首を傾げる静希君。
「ポリンは嬉しいんですが、スモーキーは兄さんの方が好きですよ」
「え?」
隣を見ると、しまったっと顔を手で隠す巴さん。
その顔は赤い。
思い出してみる、そういえばあの時、手にした狸人形とポリン人形を交互に見ていた気がする。
しまったと思うのは私の方です。
狸人形が好きだなんて事恥ずかしくて言えなかった巴さんの嘘を見破れなかったなんて。
裾を引っ張る手。
「これ兄さんに渡して下さい」
にっこり笑いながら狸人形を返してくる静希君。
「ありがとうございます」
と小さくお礼を言った。
「巴さん、これ貰って頂けますか?」
「い、いらん」
これは簡単に受け取って頂けませんね。
「そうですか、折角買ったんですが仕方ない、ベル、アルベルタのポタありますか?」
「へ?一応あるけど」
シュインと音を立て現れる光の柱。
そこに乗ろうとした瞬間…
「待て!」
っと巴さんに腕を捕まれた。
同時に手に持ってた人形をとられる。
「この可愛いタヌキをひとくちケーキなんかにすんじゃねぇ!」
「えぇ、しませんよ貴方に貰って頂けるなら買った甲斐もあります」
クスクスと笑いが込み上げる。
アルベルタと聞いてタヌキ人形の使い道を即座に言えるなんて、よほど狸人形が好きなんですね。
「笑うな!」
まったく、ますます好きになりそうですよ巴さん。
今度露店で狸人形を見かけたら一つ残らず買っておこうと心に誓ったのでした。
おまけ。
アルデバラン。
自分のギルドの溜まり場に帰って落ち着いた所でふとした疑問が。
「ところでベル、なんで都合よくアルベルタのポタなんて持ってたんですか?」
「ん?巴がアルベルタで魚買うから出せって、カートから魚切れる度に言うからメモ取った」
「ベル、1ヶ月上納10%で頑張って下さいね」
「んなっ!?」
私より先に巴さんと仲良くなっていた罰です。
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