「暇だ~何か面白い事ない?」
と相方の声を聞いた。
◆昔話
何処にも狩りに行かず、ブラブラとプロンテラで露店を見ていた時の話だった。
「何かねぇ、狩りにでも行くか?」
「飽きた、ってかもう行く必要ないぐらい強いだろ俺ら」
転生してかなり時間が経っている俺たちは光っている。
周りから言わせるとオーラが見えるとか。
「レア狙うのもなぁ」
「そうだ、弟子をとろう」
「……………は?」
長年の相方だが、時々俺の斜め上の考えを言うので困る。
その発想はなかった。
って弟子!?
どっか汽車乗って行こうみたいな軽いノリでいう事か?
いや乗っていけるのはアインって決まっているのだが。
そうじゃなくて
「人生の先輩としてさ、冒険初心者を育てる。うん暇潰せそうじゃない?」
「いや、急に弟子って」
「んじゃ、俺教会に探しに行くから、蒼も見つけてこいよ~」
「まて紅月!」
伸ばした手から逃れるようにテレポートした紅月。
ポツンと露店街に残された俺。
あいつ本気か?
俺にも弟子とれって言うのか…
教会に探しにいったって事はプリーストになろうとしてるアコライトを見つけてくるんだろうな。
弟子…………とりあえずモロクにでも行ってみるか。
カプラにモロクまで送ってもらう。
さて、俺の目に適うような奴はいるか?
適当に歩いてみる。
ふと前方にいるシーフに目が留まる。
ふむ、そのガキの傍にいたナイト今、やられたな。
結構鮮やかに盗むもんだ。
そんな事を思っているとそのシーフが俺の隣を通り過ぎた。
チャリン
耳を澄ましてないと絶対聞こえないほどの小さな音。
こいつ…
俺は自然と笑顔になっていた。
ツカツカと小僧に追いつくとスッと隣を通りすぎる。
5M程離れた所で様子を見ていると、ポケットを押さえ盗った物が無くなっている事に気付いたらしく焦っていた。
いいな、あいつ。
育てれば強くなりそうだ。
そう思った俺はそいつの前に行き、そいつが盗った数個の財布を見せながら言った。
「ダメダメだなお前、そんなんじゃ捕まるぞ?」
目の前のシーフは俺を見る。
真っ直ぐに見つめてくる瞳。
「俺は蒼っていうんだ、お前は?」
「………志貴」
「志貴か、よし、俺が今からお前を立派なシーフに育ててやる!」
笑顔で志貴の手を取り歩き出した。
嫌だとかそんな事も言わず大人しくついてくる。
手にすっぽり収まる小さな手。
何かいいな、こういうの。
その後、勝手に連れてきたという事を思い出し親はいるのか聞いた。
誘拐犯とか犯罪は犯したくない。
一瞬悲しそうな顔をした志貴の目は全てを語っていた。
まぁ親がいるようなガキならモロクでスリしてないよな。
そっと頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫で回した。
びっくりした顔の志貴。
その後初めて笑顔をみせた。
まだ出逢って日にちも経ってないのに、その笑顔に愛しさが込み上げてきた。
「蒼、お前の弟子どうだ?」
「どうっていい奴だぞ~素直でさ、俺が教えた事どんどん飲み込んでくんだよ」
「楽しそうだな」
「誰かに惚気たくなるくらい可愛い」
久しぶりに志貴と別れ紅月の家に来ていた。
志貴は棗のギルドで寝ている。
本当は今日も一緒に狩りに行きたいとか思ってる辺り弟子バカだな俺。
「そう言うそっちはどうなんだよ」
「ベテルギウスな…あいつ…」
「何か暗いぞ?」
「俺が師匠でありながら、あいつ殴りプリになるなんて言うんだぞ!?」
うがーっと、叫び出しそうな勢いで紅月が座っているソファの前にある机を叩く。
因みに紅月はMEプリ。
「双子の弟は魔力が強そうだったからアークトゥルスに預けたんだが、しまった、あっちの方がよかったのか?」
ぶつぶつと言いながら叩いた机に項垂れている紅月。
「まぁ、どの道行くのかはそいつの自由だ、思い通りにならないなんて普通だぞ」
「お前んとこは?」
「ウチの志貴は可愛いぞ~もう俺が目標とか可愛い事言いやがって」
「…妬ける」
ボソっと言って俺に覆い被さってくる紅月。
ボフっとソファに押し倒された。
「紅月?」
「久しぶりに俺と居るっていうのに弟子の事ばかり…面白くない」
「今日は帰らないといけないんだが?」
「弟子が待ってるって?関係ない泊まっていけ」
「………っ」
軽く口付けされる。
あー、こうなったら何言っても聞かないんだよなこいつ。
首筋に唇を落とされ軽く吸われる。
今日は狩りにも行かないと鎧を外していたのが不味かった。
肌蹴ている服の隙間から紅月の手が滑り込んでくる。
胸の突起を指で転がされると背中にゾクゾクと甘い痺れが走った。
「声出せって」
「…嫌だ」
「ふーん?」
ペロッと胸の突起を舐められ、声を出しそうになるのを必死に堪える。
男の喘ぎ声とか聞いても面白くないだろ?
とは思うがそこを執拗に攻められると段々息が上がってくる。
それに気付いた紅月の口の端が、にっと歪むのを見た。
空いている手が器用にベルトを外す。
そのままスルっと服の中に手を入れ中心を撫でられる。
「待て、あか…っ…」
「もう濡れてるのに嫌もないだろ」
「…っく」
上下に手を動かされるとたまらない。
久しぶりだったせいかあっけなく紅月の手を汚してしまった。
ハァハァと息を整える。
それを待たずに紅月の手が中心よりも奥に伸びようとした瞬間…
『蒼さん、今日は帰ってこない?』
という志貴からのWisが聞こえた。
その声を聞いたとたん上の紅月を跳ね除けた。
「はぁ?蒼、今からが本番だろ」
「あー、悪い」
「そんなに弟子が心配なのか」
「あいつ、俺が傍にいないと危なっかしいんだよ、フラフラその辺で転がりそうで」
「………弟子バカ」
「そうだな」
はぁっと紅月が大きな溜息をついた。
顔を上げ俺の目の前に指を2本突き出してくる。
「2ヶ月だ」
「ん?」
「2ヶ月で弟子にお前の全部教えろ、その間俺もベテルギウスをそれなりに育てる」
「それなりって」
「その後2人を偶然装って逢わす」
「お前、それ」
「相方ができればお前も安心だろ?一応殴りでも支援位できるようにしといてやるさ」
また俺の斜め上の考え言いやがって、でもそれは…
俺の手を離れ、紅月の弟子と一緒に居る志貴を想像する。
寂しいような、でもあいつにも大切な奴ができたら。
「乗った」
「さっさと弟子離れしろよ、と決まったところで」
「んぅ!?」
再び押し倒してくる紅月。
志貴に『すまん、今日は帰れない』と伝え観念する事にした。
2ヵ月後、俺は志貴の前から姿を消した。
抜けると言った時の志貴の顔は寂しそうだったが、泣きもせず真っ直ぐに俺を見つめていた。
会った頃と変わらない瞳。
渡したカタールと帽子。
アサシンになった時それを使う志貴の姿を想像しながら、振り向きもせず去った。
紅月の方は大変嬉しそうな顔をされたと言っていたな、あいつ弟子どんな育て方してたんだよ。
それから約束通り志貴と紅月の弟子とを偶然を装い逢わせた。
あぁ、志貴の嬉しそうな顔。
俺の元でいるよりもっと色んな出会いをすればいい。
出逢った日の手の温もりを思い出す。
「蒼」
「大丈夫」
傍に居た紅月に笑顔を返す。
あの小さかった手が、立派に成長した時また会おうと思う。 |